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九十九丸編について

九十九丸編は剣・君どちらのルートもとても面白かったなあ。
君ルートでは剣ルートでは明かされなかった過去の詳細やマレビトの情報などが次々開示され、九十九丸への思い入れがより深くなりました。まさか本編中に遠野に行けるとは思わなかった!
四魂の結末もそれぞれ素晴らしくて甲乙付け難い。どれを見た後も頭抱えて唸る羽目になった。
王道でしっとりした雰囲気の荒魂までは比較的正気でいられたんだけど、衝撃の和魂以降はテンションの上がり具合が尋常じゃなかったな。一日一EDペースで一気にクリアしてしまった。

荒魂はタイトル回収もさることながら、九十九丸本来の優しさや包容力が印象的に描かれていてとてもよかったです。情報開示は最も少なかったけど、最初に見た結末がこれで正解だった。
香夜が寂しいって打ち明けた後の「……うん。」がとても好き。
結末のハヤトと手紙も九十九丸が店に来たばかりの頃を思い出してじーんとしました。
剣ルートで見せた頑ななまでの剣への拘りも荒魂ではいい方向に変化したようで、安心して見送れたな。
わずか一年足らずで霊場巡りを完遂して香夜の元に戻ろうとするそのド根性にはびっくりしたが、彼女の名をつけた剣が手元にあるならそうそう無茶はしていない……はず。たぶん。きっと!
お馴染みの剣ルートエンディング曲も、改めて聴くとこのEDの内容に沿っていて感動。
旅の間によりいい男に成長しただろう九十九丸との再会が楽しみです。

そしてその次に見てしまったのが和魂である。
和魂だから賑やかで平和な結末だと思ってたのに!思ってたのに!騙されたー!!
クリア直後は真面目に放心してました。まさかああなるとは……。
画廊や結末についてのコメントの闇堕ちっぷりといい、九十九丸の新たな可能性を見てしまった。
しかしなんだろう、勿論マレビト化した九十九丸は素敵だったんだけど、それ以上に、最初は普通そうにしていた九十九丸がいかにしてああなったのか、香夜の心情と併せて考えるとたまらないものがある。
あの流れは遠野の旅に香夜が同行した場面とちょっとダブります。
あの時も九十九丸はなんとか香夜を思いとどまらせようとしてたけど、彼女が待ってるのを見た瞬間は嬉しそうだった。諦めて一緒に行くと決めた時も、心配そうにしつつも喜んでたよね。
そう考えると、和魂も九十九丸らしい結末なんだなーと思う。
最初はいくらなんでも君ルートなんだからこのまま常夜EDはないだろうと思ったんだが、途中からはもう「香夜だけ現世に戻されませんように!生きるも死ぬも九十九丸と一緒でありますように!」と祈ってたよ!
暗転した瞬間感じたのが安堵だったという点で、自分にとって和魂はハッピーエンドなのかもしれません。

その次の奇魂はさすがに身構えてたので、BAD的な意味での衝撃度は然程でもなかった。
が、ここまできて永別EDじゃなかったことには唖然としました。
全ED見た後だとバランス的に納得いくけど、プレイ中はまず永別だと思ってた。恐るべし九十九丸編。
奇魂分岐後の、満を持してのマレビト九十九丸登場 → 「お嬢さんと、離れたくない……っ!」 → 斬鉄の首スパン → 血塗れ笑い → エンドロールという流れはメリーバッドエンドとして秀逸でした。
特に、香夜への未練ゆえにマレビトの半身である己を受け入れる展開には息を呑んだ。
剣への執着によってマレビトの手を取り、やがて香夜のことも忘れ異形の存在となるか。あくまで誘いを拒み、マレビトの九十九丸ごと常夜に消えるか。直前が和魂だったおかげで「いや、もしかして……」と思うフシはあったものの、予想としてはだいたいこのどちらかだとばかり……。正直なめてたよ九十九丸!
あそこは二人の台詞もさることながら、彼の覚悟の有無を淡々と語る地の文にゾクゾクしたなあ。
過去にも未来にも命にも執着しなかった九十九丸が、甘言に乗せられたとはいえ、それまで求めた剣の道を穢してまで執着したのが香夜だと思うと、何もかも運命的に見えてくる。前章の出会いが懐かしい。
生還後の九十九丸はだいぶマレビト化しているので、彼が何を考え、何を目指して剣を取るのか、その意識の有り様は闇に呑まれて見えなくなってしまったけど、香夜への想いだけは変わらず核としてありそうなのが薄ら寒くも萌えます。
九十九丸が戻ってきたとき、二人は一体どうなるのだろう。後日談が最も気になる結末かも。

読み返していて思ったんだけど、同じメリバでも、和魂では香夜の、奇魂では九十九丸の想いの強さが引き金になっているのだと思うと、その似たもの同士ぶりに戦きたくなる。どんだけお互い離れがたいんだ……!
メリバもいいけど、そろそろスッキリ明るく幸せになろうぜ!

という願いを叶えてくれた幸魂は素晴らしかった。
終わってみれば分かりやすいハッピーエンドだったかもしれないけど、最中はめっちゃハラハラしたよ!
今までの集大成的な展開で盛り上がりも大きく、ラストに持ってこいでした。
分岐直後、香夜が何者かに伸し掛かられる場面でちょっと萌えてしまったプレイヤーを許してほしい。
薙刀を持っているのに、九十九丸を傷つけることを恐れて抵抗できない香夜にもきゅんとした。
常夜の香夜VSマレビト丸の描写もよかったです。武芸者である香夜にとって、九十九丸は何があっても刃を向けたくない大切な人なんだと実感した。それを受けての「……いいんだ」で涙腺が大変なことに!
幸魂は最初から最後まで、香夜がすごく頑張っていた印象が強いなあ。
特殊な力も武器も何も持たない町人の娘だけど、そんな彼女なりに一生懸命好いた男を守ろうとしていた。
九十九丸が意識喪失状態だった時は勿論のこと、目覚めた後も香夜の頑張りがなければ九十九丸は助からなかっただろう。なにせ当の本人が自殺する気満々だったからな!
和魂攻略後のプレイヤーには九十九丸が死ぬ=香夜も死ぬという等式がありありと見えていたので、あの辺りは心臓に悪かったです。九十九丸のばか!特攻隊!いのちだいじに!!
九十九丸も九十九丸なりに一生懸命お嬢さんを守ろうとしているんだけど、死人ゆえか自らに対する諦めが早すぎてな……。もう両肩掴んで「今の君は知らないだろうが、香夜はもう君なしでは生きていけないんだよ。分かるかい?」と似非父様口調で諭したくなったよ!
脱出の間際まで後ろ向きでどうしようかと思ったら、香夜の手の温もりによって奮起してくれて一安心。
香夜が九十九丸がいないと生きていけない以上に、九十九丸が生きるためには香夜が必要なんだろうな。

幸魂の再会後のやり取りは、荒魂の別れ際と同じくらい読んでて「ああああああ!」ってなります。
CG、コメント含めて全てが好きだ。九十九丸の穏やかで優しい微笑みに癒やされる。
九十九丸のいいところは、未熟は未熟と認めた上で真摯に精進するところだよね。
幸魂では香夜に助けられっぱなしだったけど、ちゃんと一太刀防いでたし、九十九丸自身も精一杯マレビトと戦ってたのでヘタレとは思わない。そこで完璧に活躍する九十九丸って何か違うし。
大人になって血色もよくなった九十九丸が、お嬢さんに助けられた、今度は俺がお嬢さんを守るって言ってくれたから、もうそれでいいよ!全然いいよ!
香夜の愛しさの篭った台詞や描写も素晴らしくて、お気に入りの場面です。
現世で二人幸せになれて本当によかった。

マレビト丸が命を還してくれた件は、「えっあんなに怒ってたのに!?」と思わなくもなかったけど、回想ラストの気圧されたような、戸惑ったような「…………。」でなんとなく納得してしまった。
九十九丸が気力取り戻した時点で敗色濃厚(っていうかほぼ勝負決してた)だったし、その上で半身に対して多少なりとも情があったなら、それくらいしてくれるかも?と。
本当のところは是非本人に聞いてみたいが、こればかりは後日談でも機会がないかもな。


九十九丸の四つの結末はどれもそれぞれの良さがあるので、やっぱり一番は決められません。
今回改めて各結末を回想してみて、十五歳通常・十五歳マレビト・二十歳通常・二十歳マレビトの全方位網羅っぷりに「くっ……!」と膝を屈した。
よく見ると衣装も浴衣・通常・若旦那・通常二十歳・(浴衣二十歳)とバリエーションに富みすぎだろう!
荒魂の浴衣はいいものだった。

そういえば、荒魂と奇魂では「キミのところに必ず帰る」、幸魂と和魂では「ずっと離さない」「ずっと一緒に」という旨の台詞が共通なんだな。
台詞はもちろん、意味すら同じなのに、それぞれの背景によって感じ方が全く違うところが面白い。
こういう要所要所の対比や呼応がマルチエンドの醍醐味だと思ってるので、剣が君、特に九十九丸編は遊んでてとても楽しかったです。
正と負が互いを引き立てる見事な構成でした。

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